あの船は、外部からの極めて大きな圧力に耐えるように、そして熱線を完全に防ぎ、それから放射性物質の浸透を或る程度食いとめるように設計されてある

「それで彼はゼムリヤ号についてどういう地位にあるのかね」「原子爆弾防衛委員の一人ですわよ。そしてアイスランド海域の監視人なのよ」「なに、やっぱり原子爆弾か。これはたいへんだ。エミリー、すぐ外へ出ておくれ。僕は湯舟から出るからね」 ドレゴはエミリーを浴室から追い出すと、ゆで蛸《だこ》のように真ッ赤になった身体で立ち上り、タオルで拭うのもそこそこにして服を着かえると、エミリーを自家用車に乗せて駛《はし》り出した。向うところは飛行場だった。 飛行場の傍まで来ると、旅客機は既に砂煙をあげて滑走中だったので、ドレゴもエミリーも歯をぎりぎり噛み合わせて口惜しがった。 ところがドレゴの運が強かったわけか、旅客機は滑走路のはずれまで行っても離陸しないでぐるっと方向転換をし、元の出発点に引返してきた。 事故の原因は、サイド・パイプから油が少々ふきだしたことにあった。そのおかげで、ドレゴは単身機内へ乗込んで、ケノフスキーに面会することができた。かれは、短刀直入に用件を切出した。 ケノフスキーは赤い海象《せいうち》のような顔をゆがめて愕いたが、それでもドレゴの申出を諒解してここでは話もならぬからといって、飛行機を下りた。二人は、飛行場のまん中で、寒風に吹き曝《さら》されながら立ち話を始めた。 取引の契約が調《ととの》ったあとで、ケノフスキーは次のような要旨を含んだ話をドレゴに聞かせた。「わしはヤクーツク造船所の一代理人だが、原子爆弾防衛委員でもなければ、アイスランド海域の監視人だなんて、それは嘘ですよ。しかしゼムリヤ号のことについては相当承知していますよ。あれは優秀砕氷船です。だがそれ以上の目的を持った試作船でさ。もうお察しでしょうが、あの船は、外部からの極めて大きな圧力に耐えるように、そして熱線を完全に防ぎ、それから放射性物質の浸透を或る程度食いとめるように設計されてある、つまり結局、原子爆弾の恐るべき破壊力にも[#「破壊力にも」は底本では「破壤力にも」]耐えられるだけのことが考えられてあるんでさ。こういう船を作っちゃいかんというわけはないですからね。いや、それよりも全人類が原子爆弾の脅威に曝らされている今日、われわれ人類は生存の安全のため一日も早く、あの脅威を防ぎ留める工夫をしなければならぬことは当然のことです。その対策としては、われわれが全く地底に隠れるのも一方法だが、しかしそれでは移動性に欠け、所要の交通や貿易ができなくなるわけだ。それじゃ困るですからな」「航空機に耐力を持たせることも、今のところ不可能です。あれはマッチ箱みたいなものですからね。結局船である。水の上にふんわりと浮かんでいる船なら、伸縮があっても大丈夫、吹き飛ばされようが広い海の上なら大したことはない。陸の上じゃそうはいかん。結局船がいいということになるが、わがヤクーツク造船所では、マルト大学造船科にその設計を依囑《いしょく》したところ従来の造船工学にはアイデアのなかった顕著に伸縮性のある船を考え出してくれたのです。そしてそれは試作船として一先《ひとま》ず成功をおさめたといえる。君も見て知っているでしょう。あの山頂に叩きつけられたゼムリヤ号が、ほとんど外形を損じていなかったことを!」

— posted by id at 01:26 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 4.3783 sec.

http://doctor-who-spin-off.com/