いや、ひょっとしたら怪奇を極めたゼムリヤ号座礁事件の真相さえが、快刀乱麻《かいとうらんま》を断《た》つの態で解け去るかもしれないのだ。水戸記者は、轟く胸を抑えつつ軟泥を蹴って前進した。

それからまた前進が始まった、すると間もなくかなり高い丘陵の下に出た。その丘陵をのぼり切ったとき、突然右隊から「警戒! 停れ」との信号があった。 何事かと、左隊の三名が潜水兜をくっつけ合って意見交換を始めたとき、右隊から誰かが近寄ってきた。「おお、ホーテンス」 水戸は彼を認めて、名を呼んだ。そのホーテンスは途中急いだと見え、聞きながら水中電話機から声を出した。「大警戒を要するのだ。前方百メートルのところに、海底からとび出したものがある」「海底からとび出したもの?」「そうだ。その正体はまだ分からぬ。沈没している船かもしれない。或いは岩かもしれない。とにかくこれから油断をしないで前進するように、との博士の注意だ」

海底にわだかまるもの

 ホーテンスが右隊のほうへ帰ってしまうと、左隊の三名は、前よりも一層互いに身体を寄り合って、そろそろと軟泥の上を前進していった。(沈没船か、岩か?) 岩なら別に問題はない筈。博士が警告したわけは、それが沈没船の如き異様な物体だと判定したからであろう。 すると沈没船が、あの異常振動を出すのであろうか。 とにかく振動源の方向に、その沈没船らしいものが横たわっているので、博士は警戒を命じたものに相違ない。すると、そこまで行きつけば、その正体も、振動源の謎も解けるかもしれないのだ、いや、ひょっとしたら怪奇を極めたゼムリヤ号座礁事件の真相さえが、快刀乱麻《かいとうらんま》を断《た》つの態で解け去るかもしれないのだ。水戸記者は、轟く胸を抑えつつ軟泥を蹴って前進した。

— posted by id at 01:37 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 3.5865 sec.

http://doctor-who-spin-off.com/